2012年12月1日土曜日

第13回公判の報告


「自然の権利訴訟」第13回公判の報告

9月5日(水)山口地裁にて第13回公判が開かれました。

 いつも通り新幹線の新山口駅に着いて、ローカル線で山口駅に向かおうとしたところ、豪雨のため電車が止まっているとのこと。この付近の雨はやんでいたものの、単線なので一部が止まると全線が不通になってしまうそうだ。ジタバタしても仕方がないのでおとなしく30分ほど待つことに‥。公判はいつも数分で終わってしまうので、これだけ遅刻してしまうと、もう終わっちゃったかも‥と思いつつ、山口駅から駆け足で地裁へ‥。けれど、実は弁護士さんらも同じ電車で足止めを食らっておられたそうで、その到着を待つために開廷が遅らされていたのでした。ということで、無事間に合ったので、公判の内容について報告させていただきます。

■前回の主張を補充
 今回提出した準備書面は前回の主張に補足して、上関が立地場所に選定された経緯について説明するものでした。中電は長年の立地活動にもかかわらず地元の反発が止まず島根県豊北町での立地工作に挫折します。それと前後して候補地として急浮上したのが、過疎の進む上関町だったということで、そこで何より最優先されたのは地元の受容性であって、物理的・客観的に適地であるかどうかという観点から絞り込まれた選定では決してなかったということを、中電の社史にある記述なども交え解説するものでした。
 裁判長が必ずしもこの経緯をご存知ではないかも知れないので、と赤津弁護士は書面の意図を説明されていました。

■埋立免許の失効が見込まれる中
 ところで、今回法廷で交わされたやりとりの主眼はむしろ今後のことについてでした。というのも、山本知事が期限切れを迎えつつある埋立免許の延長を認めない方針を表明しているからです。
 この方針は前職の二井知事から引き継いだものですが、これまで推進の立場であった前知事が任期終了の間際になって、そういわざるを得なかった背景には、やはり福島での事故をうけて、脱原発に向かって大きく傾いた民意があります。
 仮に報道の通り、免許が延長されず失効してしまうと、埋立免許の取り消しを求めて提訴されている本件訴訟は、訴えの利益を失ってしまうため、通常こういった場合には裁判所が訴えを却下するとか、原告が訴えを取り下げるなどの手続きがとられます。
 裁判長も原告席に向かって、新たな申請(後述)このことも含めて、免許が失効した場合に訴訟をどうするつもりなのかということを尋ねられました。
 原告側からは、埋立免許が延長されないという可能性は報じられているものの、正式に被告の意思はどうなのかと問いかけられましたが、被告代理人はその場で即答することを避けました。
 後日、書面にて回答することだけ約束して、この場のやり取りは終わりましたが、隙あらば計画を復活したいと願っている原子力村のゾンビたちが、いかにして今後の可能性を残そうかと水面下でもがいている気配を感じさせました。
 
■この間になされた新たな二つの申し立て
 さて、ここで公判以前になされた二つの申し立てについてご説明します。ひとつは新たな訴訟の提訴。もうひとつはこの裁判の審理に中国電力も当事者として参加させるよう要請する申し立てです。
 前者は埋立免許の失効を確認するもので、現在の裁判が埋立免許の取り消しを求めているのに対して、援護射撃として別の角度から、実はこの埋立免許は既に事実上失効してしまっているのではないかという疑義・主張をぶつけていこうというものでした。
 後者は埋立免許の申請から交付に至る多くの局面で被告山口県の判断・行為は中国電力の言い分に依拠して行われているので、当の中電が何を根拠としていたのかを質さなければ、その妥当性を判断することができないということで、中電自身に当事者として参加させ、釈明させる(できないことを明らかにする)ことを目的としたものでした。
 いずれも、この裁判を勝ち抜くために二重三重の攻撃として、かねてから用意されてきたものなのですが、外から見れば、なぜ今のタイミングで? と映るかもしれません。裁判所もそういった感想を抱きつつ、今後の原告側の意向を聞きたがっているようでした。

■今後どうするか
 閉廷後の報告会で籠橋弁護士は「埋立免許が失効するからといって、提訴を取り下げる考えは、私としてはない」とキッパリ言われました。そして、「もちろん原告含め広く相談して決めることだけれどもとも‥、判決の中できっちり我々の勝利を書かせたい!」と言われました。
 確かに、相手が原子力村のゾンビであることを考えると、一時の勝利で終わらせてしまうことは、必ずしも安心できることではありません。原発の代わりに核廃棄物処分場が誘致される危険はないだろうかとか、漁業補償のお金を返せという圧力がかけられてくるのではないかとか、いくつかの懸念も挙げられました。
 とにかく、今は上関原発計画の息の根を止めることが必要であり、どうすればいいのかひな形があるわけではないけれど、法廷だけではなくむしろ運動の力でそれを勝ち取っていこうと、そして、今こそたたみかける時であるという認識が共有されました。
 籠橋弁護士は「ホントは中電に二度とやりませんという誓約書を書かせたいのだけれど‥」とも言われましたが、これは、その場にいたみなの心情に重なるものだったと思います。

■もとの海に戻してもらえないのか
 一方で残されているもうひとつの重要な問題についても提起がありました。それは一刻も早くもとの海に戻させるにはどうすればいいのかということです。
 長島の生き物たちやそれを代弁している原告らの思いからすれば、計画が挫折したのであれば、すぐに元通りにして返してもらうのがスジです。
 しかし、そんな紳士的な相手ならそもそもこんな争いにはなっていないわけで、ブイをどけさせる、仮桟橋を撤去させる、伐採した山の斜面を復元させるなど、それらひとつひとつについて今後地道な交渉が必要となってくることが予想されます。
 現状復帰についても、ひな形があるわけではないけれど、裁判でというよりは、むしろ運動で勝ち取っていくしかないと話し合われました。

 とりあえず、破壊が一旦止むことは間違いなさそうです。それを決定的なものとさせるよう、まずは政府が打ち出した新増設は認めないという方針が、財界の恫喝によって揺らぐことの無いよう、全国で世論固めをしましょう。

■次回の予定
 次回の公判予定は、12月5日(水)11:00からです。傍聴を希望される方は10:30を目処にお越しくださいませ。

 ちなみに、公判の後で進行協議が行われ、そこでこの訴訟をどうするのかということが話し合われる予定です。

文責:小坂勝弥(原告の一人・京都在住)

第10回公判の報告

「自然の権利訴訟」第10回公判の報告

11月30日(水)山口地裁にて第10回公判が開かれました。晩秋の深い紅葉とおだやかな天候に恵まれたこの日、祝島の埋立免許取り消し訴訟が時間差で行われることもあり、祝島の漁師さんたちをはじめ、そちらの裁判を応援する方たちとも合流する形で、県内外から40名ほどの傍聴者が駆けつけてくださいました。「自然の権利訴訟」公判の内容をお伝えします。


■埋め立て免許交付にあたって、県は原発の安全性を審査していない!?

海はみんなのものなので、埋め立てを認める(免許を与える)ためには、いくつかの条件が必要です。
その代表的なものは、
・その埋め立てが、国土利用上、適正かつ合理的であること
・環境保全および災害防止に十分配慮されていること
ですが、
県は「埋め立てた土地がその後どう使われるかは審査の対象ではなく、埋め立てのことだけを審査した。したがって原発立地が合理的であるかとか、原発が安全であるかなどは審査していない」と主張しています。

これは原告側からの批判をかわすためになされている主張ですが、埋め立て免許を交付する立場にありながら、原発の安全性については審査していないと開き直る姿勢、、みなさんどう思われますか。

■実際には、電源開発基本計画に組み入れられたことで、よしとした。

原発を立地する際にクリアされなければならない条件は、かつては「電源開発促進法」、現在では「重要電源開発地点の指定に関する規定」によって定められています。代表的なものは、
・アセスメントが終了していること
・公開ヒアリングが終了していること
・地元市町村長の同意が得られていること
・知事の意向について考慮がなされていること
・国土の総合的な開発・利用の見地から適切な考慮がなされていること
・人の健康の保護および自然環境などの保全が図られていること
などです。

事業者から出された申請がこれらの条件をクリアしたならば、経産大臣は電源開発基本計画の中にその原発を組み入れることができます。

ご覧の通り、埋め立て免許に必要な要件を内包していますので、県知事は上関計画が電源開発基本計画に組み入れられたことを受けて、それを根拠に埋め立て免許を交付したことは明らかです。

■では、電源開発基本計画に組み入れられる手続きは適正であったか?

そこで、経産大臣が中国電力から申請を受けて上関計画を電源開発基本計画に組み入れた手続きが適正であったかどうかが問題になりますが、以下のようにいくつかの違法性があります。

まずは、安全性の問題。これまでの公判でも指摘してきているように、同計画は耐震設計上重大な瑕疵があり、人の健康の保護および自然環境などの保全が図られているとは到底いえません。

そして、知事の意向を考慮したかどうかについて。経産大臣の諮問機関である総合資源エネルギー調査会が審議した中国電力の申請は、知事の意向を踏まえて出したとは言えない時期に出されており、それをそのまま認めたことは違法であるといえます。

■国土の総合的な開発・利用の見地から適切な考慮がなされているとは?

以上に加えて、籠橋弁護士は法廷で以下の内容(準備書面にはない)を口頭にて補足されました。

「国土の総合的な開発・利用の見地から適切な考慮がなされている」とは具体的にはどういうことなのか。それは、人口過密地帯を避け過疎の地域に原発をつくるということです。このような割り切り方が本当に許されてもいいのでしょうか! 東京湾ではできない原発がどうして上関でならば許されるのでしょうか。この裁判はそれを問うてゆくことにもなります。

このことは原発問題にかかわる多くの人々が関心をもっている普遍的な問題です。私たちの社会がかかえる根源的な問題のひとつといえるかもしれません。自然の権利訴訟という土俵で、このことが改めて問われているという展開を目の当たりにして、野生生物たちが人間社会のありようそのものを問うているのだなあ、、と思いました。

■違法な組み入れ計画に基づく公有水面の埋め立て免許は違法である。

以上のように、上関計画は立地に際して必要な要件を満たさないまま電源開発基本計画に組み入れられたのであって、これに基づいて県が行った公有水面の埋め立て免許交付は違法である、との主張が行われたのでした。

■次回の予定

次回の公判予定は、3月21日(水)11:00から

今回と同様、祝島の埋立免許取り消し訴訟が10:30からありますので、傍聴を希望される方は10:00までにお越しくださいませ。

文責:小坂勝弥(原告の一人・京都在住)

2012年9月1日土曜日

第12回公判の報告


「自然の権利訴訟」第12回公判の報告

6月13日(水)山口地裁にて第12回公判が開かれました。今回も祝島島民の方たちによる埋立免許取り消し訴訟と同じ日程で、30名ほどの人たちが傍聴に参加してくださいました。公判の内容についてご報告させていただきます。

■県知事は安全性について独自に判断をしていない
 今回の主張の柱は「県知事は埋立免許の交付にあたって、将来原発が建設される際に確認されなければならない安全性について、独自に何ら判断をしておらず、それは違法だ」ということです。

■安全審査はいつ行われるべき?
 原発が建てられるまでには、電源開発基本計画への組み入れ〜公有海水面の埋立〜原子炉設置許可、、と、いくつもの手続きがあり、何がどの段階でどう審査されるかということが一応決まっています。

 安全性については原子炉設置許可申請が出された段階で保安院が審査することになっていますが、そのためにその前段階ではなおざりにされてしまっているのが実状です。

 しかし、後で審査されるからといって、それまで放ったらかしにしてしまってホントにいいのでしょうか。

■一度始めてしまったら取り返しがつかない
 本件原告団がこれまで再三にわたって主張してきたように、自然生態系は多様な生物の繊細な結びつきによって成り立っているため、海の埋め立てや森林の伐採などによって、一度壊されてしまうともう簡単に戻ることはありません。

 そして、地域社会の自立性というものも同じような繊細さをもっています。ひとたび原発マネーが入り込み、それを充て込んだ利害関係が網の目のように張りめぐらされてしまうと、後戻りすることはたいへん難しくなってしまうのです。

 つまり、一度始めてしまったらもう取り返しがつかないのです。ならば、始める前の段階で、安全性に関する審査は当然なされるべきではないでしょうか。

■日本の原発がかかえる根源的な問題
 立地に際して幾多の反対運動が起こってきた日本においては、これまで原発の用地選定は交付金によって地域の反対が押さえ込めるか否かが最重要視され、安全性の問題は常に後回しにされてきました。

 上述のように、他の手続きが先行することは後戻りを不可能とし、結果的に安全性の確保はないがしろにされてきました。現状にあわせて後から基準が変更されたり、安全神話に依存して事故は起こらないものと決めつけられたりしてきたのです。

 今回の当方の主張は、こういった日本の原発がかかえる根源的な問題を改めて提起するものでもあります。

■非居住地区や低人口地帯の設定
 さらにもうひとつ、日本の原発がかかえてきた根源的な問題があります。それは、「原子炉立地審査指針およびその適用に関する判断のめやす」が求めている、非居住地区の設定、低人口地帯の設定、集団線量を許容範囲に抑えられる距離の確保などがきちんと守られていないことです。

 危険は十分に隔離されなければならないという主旨ですが、これらの条件を遵守するならば、そもそも国土が狭く人口密度が高い日本において原発を建てることはほとんど不可能なことなのです。しかし、建てることを優先するために、「事故は起こりえない」ことを前提とする安全規制のあり方がまかり通ってきました。

果たしてそれでよかったのか、、今回の福島第1原発事故の影響を見れば明らかです。仮に指針が求めるような危険の隔離がきちんと守られていたのであれば、今回の事故の影響はもっと小さくて済んだはずです。

 このことの違法性をどう考えるかは、今回の事故をどう考えるかということとほとんど同義だといえるのではないでしょうか。

■原発が止まっている今だからこそ
 改めて思えば、国内すべての原発が止まっている中で当訴訟の公判が開かれるのはこの日が初めてでした。

 3.11以前であれば、日本のすべての原発に通底するような壮大な提起は、現状を追認する傾向の強い裁判所においては門前払いのような形で判断を避けられてしまう可能性が高かったと思います。

 しかし、多大な犠牲を経験し、日本の原子力政策の次の一歩がどちらに踏み出されるのかが真剣に考えられている今だからこそ、これまでの誤りを根底から問い直すことは避けて通れないはずです。いい加減な判断では国民は納得しない、という熱い視線を全国から送りましょう。

■次回の予定
次回の公判予定は、9月5日(水)11:30から

今回と同様、祝島の埋立免許取り消し訴訟が11:00からありますので、傍聴を希望される方は10:30までにお越しくださいませ。

文責:小坂勝弥(原告の一人・京都在住)

2012年5月18日金曜日

第11回公判の報告


「自然の権利訴訟」第11回公判の報告

3月21日(水)山口地裁にて第11回公判が開かれました。ようやく春らしい日差しが感じられるようになったこの日、前回と同様、祝島島民による埋立免許取り消し訴訟が予定されていたのに加え、建設予定地内にある土地の所有権を確認するいわゆる神社地訴訟も重なっていたため、同じ法廷で上関原発関連の裁判が3件たて続けに行われることと相成りました。

そのおかげか、60名を超える人が集まりました。入廷しては一旦退廷して入廷し直すという面倒な手続きの合間に、ガヤガヤした廊下において、いろんな関係者の顔を確認することができました。

「自然の権利訴訟」の順番は2番目。傍聴席が埋まっていることもあって、私は一応原告でもあるので、柵の内側の原告席のベンチに座らせていただきました。被告代理人をまっすぐに見据える、貴重な経験ができ感謝しています。

さて、公判の内容についてご報告させていただきます。

■事情の変更(前提がガラリと変わった)
おさらいになりますが、この裁判で争っているのは山口県が中国電力に与えた公有海水面の埋立免許が妥当かどうかということです。山口県は、国から原子炉設置許可が出されることを前提としてこの埋立免許を出したわけですが、それは3,11福島事故の前の常識を踏まえてのこと。

しかし、3,11事故が起こってしまったことによって原発をめぐるさまざまな常識がガラリと変わってしまいました。安全神話が崩壊し既存の安全基準が大きく見直されようとしています。また、エネルギー政策も原発依存からの脱却に向けて大きく舵を切ろうとしています。

こういった状況のもと、上関原発は新たにつくられる安全基準をクリアすることは難しいであろうこと、また、そもそも新規立地計画は撤回される見通しが強いこともあり、原子炉設置許可は出される可能性がない。そして、原子炉設置許可が出されることを前提に与えられた埋立免許なのだから、その前提が失われた以上、もはや無効である、というのが当方の主張でした。

■私たちが決めていくこと
公判後の報告集会において籠橋弁護士が言われました。

「裁判所が当方の主張をそのまま認めてくれるかどうかについては、必ずしも楽観していない。厳しいことは厳しいが、裁判所が安易に判決を出せない空気はある。それを背景にして突破していきたい!」

原子力政策がどう見直されるかは、まさに現在も流動的です。事故直後には新規立地なんてあり得ないという空気が支配的でしたが、原子力村のゾンビたちも巻き返しに躍起になっています。

私がここで強調したいのは、上関原発の原子炉設置許可なんか出されるハズがない、、かどうかは、法廷の外にいる人たちの世論が決めていくことになるということです。そして、そこにこそ多くの人たちの参加の機会があるということです。ぜひ、みんなでこの世論づくりのためにがんばりましょう。

■上関裁判の歴史
冒頭でも申し上げましたが、今回は上関原発関係の裁判が3件重なり、報告集会もそのすべての関係者が一堂に会して行われました。全体を俯瞰する、非常に貴重な機会で、ありがたいことでした。

この他にも係争中のもの、すでに終結したもの含め、上関計画をめぐっては非常に多くの裁判が展開されてきています。それは、裏を返せば、それだけ多くの論点について不正や問題をはらんだ計画であるということです。その一つ一つを争点化し、なし崩しを許してこなかった、関係者のみなさんの努力に改めて敬意を表したいと思います。

最後になりますが、神社地訴訟においては、同じ四代集落の住民が原告席と被告席に分かれて対峙する光景が展開されました。私は初めて目にしたのですが、とてもいたたまれない思いがしました。

■次回の予定
次回の公判予定は、6月13日(水)11:30から

今回と同様、祝島の埋立免許取り消し訴訟が11:00からありますので、傍聴を希望される方は10:30までにお越しくださいませ。

文責:小坂勝弥(原告の一人・京都在住)