2011年1月6日木曜日

第6回公判のご報告

2010年11月24日(水)上関自然の権利訴訟第6回公判が開かれ,全国から20名以上の原告及び支援者が参集しました.11時より始まった公判では,原告からの準備書面(5)及び(6),訴えの変更申立書について,また,被告(山口県)から提出された第2準備書面についての簡単な確認,次回日程の確認が行われて閉廷となりました.

その後,場所を移し小島弁護士より準備書面(5)及び(6)の説明が行われ,籠橋弁護士より訴えの変更についての説明が行われました.それぞれ長大な書類となっていますので,以下にその内容を要約します.

1. 『準備書面(5)』

本書面は,前回提出した準備書面4に鳥類を追加したもので,カンムリウミスズメ・オオミズナギドリ・ハヤブサ・カラスバトといった極めて希少性の高い鳥類について述べられています.

「上関に生息する鳥類の観点から、その(注:環境保全図書,環境影響評価)不備を指摘し、もって、これを根拠に付与された本件埋立免許の不当性、鳥類への本件埋立と原発建設による壊滅的な影響の危険性,及び原告らの自然環境を享受する利益の侵害について主張する」として,「本件図書では、この場合必須であるはずの海上調査が行われなかった…という致命的な欠陥」を指摘しています.

「これにより、上関海域における海鳥の生息状況が全く把握されず、結果、カンムリウミスズメ(国指定天然記念物、絶滅危惧Ⅱ類)やオオミズナギドリ(山口県準絶滅危惧種)といった、極めて希少性の高い鳥類を把握できず、これらの鳥類に対する本件埋立や本件発電所の影響についての考察を欠くという、極めて不十分な調査となっている。

以下に述べる通り、上関海域においては、希少性の高い海鳥が観察されており、本件事業は、これら海鳥に壊滅的な影響を与える」として,1.カンムリウミスズメ(チドリ目ウミスズメ科),2.オオミズナギドリ(ミズナギドリ目ミズナギドリ科)について詳述され,カラスバトやハヤブサといった希少種の調査の欠陥についても指摘されています.

2. 『準備書面(6)』

本書面は,建設予定地の地質の問題を取り上げ,耐震設計上の重大な欠陥と埋立免許要件との齟齬を指摘しています.

「中国電力が行った敷地周辺及び敷地近傍の地質・地質構造等の調査は極めて不十分であり、また、その評価を誤っているため、想定した地震動は過少に過ぎ、それゆえ耐震設計上重大な瑕疵を内包している。現状では、上関原子力発電所の設置許可処分がされる見込みは全く立っていない。

従って、本件公有水面埋立て事業免許は、果たして設置許可処分がされるかどうか全く不明である原子力発電所のためになされたものであるから、公有水面埋立法4条1項1号(国土利用上適正且合理的ナルコト)、同条1項2号(環境保全及災害防止に付十分配慮セラレタルモノ)の各要件を満たしておらず、取り消されるべきである」という主張内容です.

その内容は,本件設置許可申請において,中国電力が想定した基準地震動=同原子力発電所の基準地震動の策定内容(〔1〕敷地ごとに震源を特定して策定する基準地震動:①内陸地殻内地震,②海洋プレート内地震,③プレート間地震,〔2〕震源を特定せず策定する基準地震動,〔3〕基準地震動Ssの策定について概観したのち,原子力安全・保安院の地震耐震意見聴取会における4回の審議状況の概要が示され,そこから,「上関原子力発電所の設置許可処分がされる見込みは全く立っていない」ことが結論されています.すなわち,1.応答スペクトルが最大となるのは「F-1断層群」とは限らないこと,2.中国電力の追加調査の全体も不明であること,3.平成18年9月新耐震指針には、重要な知見が反映されていないこと,の3点がその要点です.

上関原子力発電所の設置許可処分がされる見込みは全く立っていない以上,公有水面埋立法における免許要件=「国土利用上適正且合理的ナルコト」,「環境保全及災害防止に付十分配慮セラレタルモノ」を満たすことができず,必然的に埋立免許は取り消されるべきである,という内容です.

3. 『訴えの変更申立書』

本申立書では,山口県が免許した公有水面埋立事業免許の効力を失っている事の確認を求めています.短い内容ですので,追加請求の主旨全文を掲載します.
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追加する請求の趣旨

被告山口県知事が,平成20年10月22日に中国電力株式会社に対して行った,公有水面埋立法第2条第1項に基づく山口県熊毛郡上関町大字長島地先の公有水面埋立て事業の免許(指令平20港湾第442号)は,その効力を失ったことを確認する.

追加する請求の原因

1.本件の公有水面埋立事業の免許は,平成20年10月22日に出されたものであり,1年後の平成21年10月21日を工事の着手の期限としていた。ところで,公有水面埋立法は13条において「埋立ノ免許ヲ受ケタル者ハ埋立ニ関スル工事ノ著手及工事ノ竣功ヲ都道府県知事ノ指定スル期間内ニ為スヘシ」と規定し,34条1項本文において「左ニ掲クル場合ニ於テハ埋立ノ免許ハ其ノ効力ヲ失フ」と規定し,「左ニ掲クル場合」の一つとして同項2号において「第十三条ノ期間内ニ埋立ニ関スル工事ノ著手又ハ工事ノ竣功ヲ為ササルトキ」と規定している。

したがって本件埋立免許においても,山口県知事が指定した上記期間内に工事の着手もしくは竣功がなされなければ,当然に免許が失効することになる。

2.被告は,平成21年10月7日に,本件事業予定地の北側の取水口側と,南側の放水口側にそれぞれブイを1基すつ設置しただけで,即座に山口県柳井土木事務所へ工事の着手届出を出している。そして、その後同21日に至るまで、れ以外の行為を何ら行っていない。しかし,ブイを2つ設置しただけでは工事の範囲すら全く明らかにならないから、2基のブイの設置は埋め立て工事の準備行為とさえ全く呼べない行為に過ぎず、公有水面埋立法13条に言う「工事の着手」に該当しない。従って、本件では工事の着手が本件埋立免許の期限内に行われていない。

3.よって、公有水面埋立法34条1項2号により、本件埋立免許はその効力を失っていることを確認するために、本件訴えを追加的に申し立てるものである。

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ここで論点となるのは,どのような行為をもって「埋立ニ関スル工事ノ著手又ハ工事ノ竣功」と認められるかという点です.社会一般的な感覚として,ブイを2基設置しただけで,工事の着工となるのであれば,わざわざ法律にこのような失効要件を組み入れる必要は無いと思われます(ブイを浮かべるだけで良いなら期間内の未着工による免許失効は実質上あり得ない).今後,この訴えの動向も注目されます.

4. 被告(山口県)『第2準備書面』

本書面では,6月7日付け及び9月21日付けの原告側準備書面に対する反論が述べられています.

その中では,埋立によってそれまでの祝島島民の努力によって維持されてきた豊かな生物資源の生息環境が破壊され,それに伴い祝島島民の暮らしや伝統文化が破壊される,という訴えに対して,環境保全図書により本件埋立の影響が軽微である事が認められ,祝島島民の伝統文化(神舞)が破壊されるといった因果関係はないと反論しています.また,祝島島民の慣習的な漁業権に対しても,「漁業権は法定された手順によってのみ設定される」として,原告が主張する慣習的な漁業権を否認しています.

全体を通じて,山口県の反論は,「不知」の文言が目立ち,温排水や薬剤の影響を否認する場合,常に「環境保全図書」において「軽微である」と評価されていることをその根拠としています.山口県という行政主体が,一方的に埋立・原発建設を行う側の中国電力が作成した資料に依拠する姿勢自体に,強い違和感と不信感を覚えます.情報隠し・改竄にかけては日本屈指の企業であることを失念しているようです.

次回は2011年2月23日(水)11時の予定です.一人でも多くのご参集をお待ちしています.

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