2011年1月6日木曜日

第5回公判のご報告

2010年9月22日,上関自然の権利訴訟,第5回公判が開かれ,全国から20名を超える原告及び支援者が参集しました.13時半より,弁護団長の籠橋弁護士より,今回の裁判の内容が説明されました.今回は,建設予定地から離れた地域に居住する原告が訴えを起こす利益=いわゆる「当事者適格」を主張することになります.

今回は,9月21日に提出した準備書面の訂正や,被告側の反論提出の期限,次回公判日程が確認されただけで閉廷となりました.準備書面では,長島・田ノ浦湾の特異な地形が育む「澄水生態系」によって生息しているスギモクや,温廃水流入による生態系破壊の蓋然性が述べられています(後述).

閉廷後,会場を移して報告会が開催され,籠橋・児島両弁護士より,今回の裁判の内容,今後の展開について一通り説明が行われました.

ここで簡単に裁判の内容を整理すると,まず,原告は,原子力発電所建設という問題に対する3つの立場から訴えの利益,原告としての適格性を主張しています.1つめのグループは最も直接的な被害が及ぶ祝島島民です.生業である農漁業への被害,万が一事故が発生した時のリスクの大きさ,毎日原子力発電所を眺めて暮らすという精神的な苦痛などが「訴えの利益」となります.2つめのグループは,これまで長い期間にわたって自然観察会を開催し,多くの希少生物の生存を確認してきた「長島の自然を守る会」です.そして,3つ目のグループが,両者のいずれにも属さない全国各地に居住する市民です.遠く離れた場所で生起する問題(環境破壊や原発の建設)に対して,如何なる利害関係があるかを訴えていかねばなりません.

籠橋弁護士によると,この「自然の利益」には2つの側面があるとのことです.1つは,人類が生態系から享受する利益,昨今では「生態系サービス」として整理されつつある内容です.もう1つの側面は,人類の生存基盤である自然を守るという,人類の使命を全うできるという利益,将来世代までを含む公共的利益です.貴重な生態系,そこに生きる個々の生物は,誰かが守らねば絶滅してしまう.弁護団は,「公益の代弁者」という表現をもって原告のスタンスを説明されています.

今回は,特に「長島の自然を守る会」が訴えの利益を有する「当事者」であることを主張することに主眼が置かれています.準備書面の冒頭では,次のように述べています.

「本件埋立行為によって田ノ浦の自然が破壊される。原告らはこれらの自然環境から得られる利益を享受する権利がある。原告らは可能な自然享有権、あるいは自然環境から得られる利益を根拠に原告適格を主張している。原告らは本件免許に関連する法規を総合的に判断すれば、本件における法律上の利益には自然環境を享受する利益が含まれること主張した。そして、長島の自然を守る会のメンバーである原告らが、原告らがその受益者であることを主張したのである。本書面では自然環境を享受する利益の内容について詳述する」.準備書面の内容は以下のようなものです.

第1 瀬戸内の自然
1. 瀬戸内海の自然環境と生物の特性
2. 本件埋立地は瀬戸内海の「心臓部」
3. 環境影響を考慮すべき範囲
4. 冷却水の問題点
5. 海生生物の調査、評価の欠陥

第2 スギモク等の田ノ浦,祝島の海藻に対する影響について
1. 本件埋立が海藻に与える影響
2. 長島田ノ浦湾における湧水と水質の状況
3. 田ノ浦の埋立が田ノ浦や祝島の海藻に与える影響
4. 温排水が海水に与える影響

第3 ベントスに対する危害
1. 田ノ浦海岸の特徴
2. カクメイ科の貝類
3. ナメクジウオ
4. カサシャミセン
5. ミミズハゼ
6. 冷却水取水と次亜塩素酸ソーダ入り温排水の欠缺

第4 スナメリに対する影響について
1. スナメリとは
2. 瀬戸内海における個体数の減少
3. 本件埋立とスナメリの危機について

準備書面は,16ページにもおよぶ文書ですので,できるだけ短くまとめてみました.所々,生態学などの専門用語が出てきますが,瀬戸内海-周防灘-長島(建設計画地)の特異な自然環境と,温廃水などの影響を考える上で重要な内容が示されています.

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第1 瀬戸内の自然

1. 瀬戸内海の自然環境と生物の特性
1) 閉鎖性水域(内海、内湾)の脆弱性

内海や内湾は、閉鎖性水域であるため汚濁物質が滞留しやすく、環境負荷に対して脆弱である。よって、内海のような閉鎖性水域における自然環境の改変行為に対しては厳密な慎重さが求められる。

2) 瀬戸内海の特性

 瀬戸内海は我が国最大の内海であり、我が国最大の生物生産能力を有する。
・ 海水が清浄な水質を保っていること
・ 砂の底質の浅瀬が広がっていること
・ 海水の塩分濃度が低いこと
・ 海水温が低い(特に冬場)こと,などが瀬戸内海の自然環境の大きな特徴である。

よって、瀬戸内海に特殊な生物や生態系も、明るい浅瀬で澄んだ海水と清浄な砂質の海底に依存して生息する生物、海水温が低温ゆえに生息できる南限の生物、低塩分の海水環境に依存して生息する生物、が特徴的となる。

2. 本件埋立地は瀬戸内海の「心臓部」
1) 周防灘の希少性

 瀬戸内海の自然環境は、高度経済成長期に埋立と汚濁が進み、大きく改変、破壊された。しかし、周防灘には、瀬戸内海の典型的な生態系と自然環境が奇跡的に残されており、人の生活と海と陸の自然環境や生物が共存する瀬戸内海の原風景がもっとも良く残っている唯一の海域である。周防灘の自然環境が今以上に破壊され、その特色ある生態系が失われてしまえば、将来、瀬戸内海の自然環境を再生させることは不可能となる。

2) 本件埋立地は心臓部

 周防灘のうちでも、本件埋立地である田ノ浦と長島の周辺には、瀬戸内海の固有種、瀬戸内海に特徴的な種が数多く残っている。特に長島周辺にしか残っていない固有種も多い。その意味で、本件埋立地を含む長島周辺の海域は、周防灘の心臓部と考えられる。

3. 環境影響を考慮すべき範囲

 海の生態系については陸ほど解明が進んでおらず、解明された範囲だけでも陸よりもシステムが複雑であることが判っている。従って、海域における環境影響評価は陸域よりも広い範囲を射程に入れる必要があり、海の生態系の不確実さや波及的影響まで考慮すれば、陸上よりかなり広い面積を影響評価の対象とする必要がある。

 この点、本件埋立免許願書の環境保全図書、及び、本件事業の環境影響評価書は、海域の広がりについてまったく考慮が為されておらず、流況や水質についても長島に近接した海域に限定し、祝島さえ考慮に入れていない。これを以て本件埋立の可否を判断するに必要な環境配慮を尽くしたものとはいえない。

4. 冷却水の問題点
1) 計画されている発電所は改良型沸騰水型軽水炉2基で,もしこの発電所が稼動すると,総出力(熱エネルギー)の約2/3のエネルギーは,廃熱として海に捨てられ,2基合計で毎秒190 トンの海水が冷却水として取水・放水される。

2) 大量に放出される温排水は,内海という閉鎖海域で,広範囲の水温の上昇を導く。イカナゴやカンムリウミスズメに代表されるように,瀬戸内海には冷水性の生物が多いという特徴があり,温排水はこれらの生物の生存に深刻な影響をもたらすと考えられる。(海外の研究では)カリフォルニアのディアブロ原子力発電所の温排水が海の生態系を劇的に変化させたという論文が出ている。

3) 冷却水の配管中にフジツボなどの付着生物がつかないようにするために,冷却水中には多量の殺生物剤(次亜塩素酸ソーダ)が投入される。次亜塩素酸ソーダはタンパク質を溶かす力が強い。多くのプランクトンや微生物にとって,それがいかに危険な物質であるかは言うまでもない。また,海水中の化学反応の結果,より有毒なさまざまな塩素化合物(例えばダイオキシンも)を作ることも懸念される。

4) 海水が滞留しやすい内海では,温排水が海域の生物多様性に与える影響ははかりしれない。そして,中国電力によって行われた環境アセスメントでは,温排水が内海の生物多様性に与えるこのような影響についてほとんど全く検討されていない。

5. 海生生物の調査、評価の欠陥

 本件埋立願書の環境保全図書では、自然環境の保全に関し、海生生物の現状調査をしたことになっているが、以下に述べる固有種や希少種、本件埋立地に特徴的な海生生物について、環境保全図書にはまったく記載がない。

第2 スギモク等の田ノ浦,祝島の海藻に対する影響について

1. 本件埋立が海藻に与える影響
1) 農地基盤整備事業や土水路の側溝化といった,瀬戸内海全域の陸の開発を通じて生じている有機物の供給の増加は,干潟や藻場の荒廃に非常に大きな影響を与えている。

2) これら悪影響を低下させているのが,海岸海底からの淡水と海水の混じった水の湧出と滞留である。浸透循環流と特に入り江状の地形が合わさった場合,浄化された海水が入り江状の地形によって水塊を形成しつつ,沖合の有機物を多く含む水塊とは混合しにくい機構が形成され,澄水生態系ともいうべき,極めて清浄な海水の中での生態系が形成される場合がある。

3) しかし,集水域の広葉樹林などの伐採および側溝の設置によって,雨水の透水量が減少すると,海水を含む地下水の湧出量が減少する。さらに,入り江状で遠浅の地形を改変すると,海岸・海底から湧出したきれいな水が滞留しにくくなる。そうなると,澄水生態系も失われることになる。

4) 本件の埋め立ても,長島における地下水の湧出量と入り江状の地形に多大な影響を与えるため,そのことが浮泥の増加を招き,結果として,長島田ノ浦湾に生息するスギモクをはじめとする周辺海域の海藻にも大きく影響を与える。

2. 長島田ノ浦湾における湧水と水質の状況

 長島田ノ浦湾の埋立予定地では,現在海岸から約50mの範囲で,最大で雨量に換算して1日約780mmもの集中豪雨に匹敵する流出高の,極めて多量な海底湧水が発生している。この多量の海底湧水が,堆泥による海藻の光合成阻害を回避し,動物の要請幼生?や海藻の生殖細胞の着底及びその後の幼体の生残を改善する役割を果たしている。また,特に田ノ浦の入り江状の地形が,沖合の有機物を多く含んだ水塊と入り江内の湧水によって浄化された水塊とを分ける効果を果たしていると考えられる。

 以上の結果,田ノ浦において澄水生態系というべき生態系が形成されており,本来は日本海特産種であるスギモクをはじめとする海藻類が豊かに生い茂っている環境が保たれている。

 また,長島田ノ浦からわずか4キロ程度先という近隣にある祝島でも,透明度の高い水質が保たれ,良好な海藻の生育環境が維持されているのは,近隣の長島田ノ浦湾において浄化された水質が少なからず影響を与えていることによると推測される。

3. 田ノ浦の埋立が田ノ浦や祝島の海藻に与える影響

 しかし,本件の田ノ浦湾の埋立が行われると,そもそも埋立自体によってスギモク等の海藻の生息範囲が奪われるほか,海岸付近の強い海底湧水も無くなってしまい,さらに地形も改変されて良好な水質の水塊を保つ場が失われてしまうことから,海藻の生育に多大な悪影響が生じることになる。

4. 温排水が海水に与える影響
1) また,本件の埋立地上に建設される予定の上関原発から排出される温排水も,周辺海域の海藻に多大な悪影響を与える。

2) 温排水は周辺海域における海水の著しい温暖化をもたらす危険性が高い。また,温排水には毒性の強い次亜塩素酸ソーダが混入されるため,それによる影響の問題もある。

3) また,温排水はそれ以外にも,アイゴという魚の越冬を可能にすることで,周辺海域の海藻に悪影響を与える。(つまり)アイゴの長期滞在が,海藻の食害の悪化をもたらしている。実際に,祝島周辺でも,アイゴによる磯焼けの被害が生じており,海岸から沖合いに約30m,幅200mにわたって海藻が消えて磯焼けが広がっている状態にあることが確認されている。

第3 ベントスに対する危害
1. 田ノ浦海岸の特徴

 長島は山口県東部の瀬戸内海沿岸にあり、周防灘と伊予灘の境界に位置している。田ノ浦の中央部には砂浜があり、砂浜の南北に岩礁潮間帯が続いている。田ノ浦の岩礁潮間帯には、固着性の動植物、匍匐性の貝類や甲殻類、海藻の葉上にすむ動物など、様々な生活型を持った生物が生息しており、多様性の高い生物群集が形成されている。中央部の砂浜についても極めて多量な海底湧水が砂浜の良好な水質を保っている結果,田ノ浦において澄水生態系というべき生態系が形成されており多様な生物相を形成している。本件埋立によってこれらの多様な生物相が失われていくのである。

2. カクメイ科の貝類
 平成9年に本件埋立地の近くで発見された報告を受け、平成11年以降に追加調査が行われ、生貝の生息や卵塊が発見された(環境保全図書2.2.2.-143 「危機に瀕する長島の自然」p6)。

平成7~8年調査の結果は、発見されたすべての種を同定、記載しておらず、調査結果報告としても杜撰な内容である。

 また、ナガシマツボは、その名前のとおり長島で発見された固有種であるが、追加調査では発見できなかった。

3. ナメクジウオ

 ナメクジウオは、人間を含めた脊椎動物の最も原始的な祖先と言われており、動物の進化の歴史をたどるのに欠くことのできない生物である(「危機に瀕する長島の自然」p7)。

 ナメクジウオについては、天然記念物の生息地指定が為されている広島県や愛知県の産地でもすでに生息が確認できなくなっているように全国的に絶滅の危機に瀕していると考えられるところ、長島周辺でこれだけ多数の生息確認ができたことは奇跡的というべきである。しかるに、環境保全図書では、ナメクジウオについて本件埋立が及ぼす影響は少ないと結論し(3.3.2.-22)、何らの対策も採られていない。

4. カサシャミセン

 シャミセンガイは、貝類ではなく、腕足動物に属し、古生代に栄えた古い種属で、わずかな種が現在でも細々と生き残っている、生きた化石である。世界的にも、腕足動物の多様性が残っているのは、日本列島とニュージーランドだけである。

平成12年、長島の自然を守る会の調査によって、カサシャミセンが本件埋立地に生息していることが確認された。しかし、埋立願書の環境保全図書には、カサシャミセンやシャミセンガイについての記載がまったく無い。

5. ミミズハゼ

 ミミズハゼは、日本列島周辺の固有属で、日本では13種が報告されているが未記載種も多数発見されている(「危機に瀕する長島の自然」p10)。世界的に見ても、礫浜に脊椎動物が棲んでいるのは日本だけである。

 本件埋立地の田ノ浦では、日本で報告されているうちの8種のミミズハゼの生息が確認されている。一か所でこれだけ多数の種のミミズハゼの生息が確認された例は他に無く、これは本件埋立地には面積こそ小さいながら極めて多様な生息環境が存在し、生物多様性が極めて高いことを示すものである。しかるに、本件埋立願書の環境保全図書には、ミミズハゼについての記載が一切無い。

6. 冷却水取水と次亜塩素酸ソーダ入り温排水の欠缺

 埋立願書の環境保全図書では、温排水の拡散実験を行っている(3.3.3.12)が、総排水量が不明であり、本件事業の供用される時間にしてどれくらいの期間に当るのか不明である。実験内容を見る限り、おそらく1秒分の排水について実験したにすぎないと思われる。環境保全図書では、この実験を以て、温度上昇範囲が限られるから影響は無いとしているが、本件原子力発電所は何十年も運転されるのであり、この結論に何らの意味も無い。

 また、環境保全図書では、次亜塩素酸ソーダの量についても一切明らかにせず、「その使用に当っては必要最小限にとどめ、放水口で残留塩素が検出されないように管理する」(3.3.3.29)などと述べるが、「必要最小限」も「残留塩素が検出されないように管理」についても、何らの裏付けも根拠も示していない。

 毎秒190トンもの周防灘の海水を次亜塩素酸ソーダ入り温水に入れ換えることになる本件発電所事業は、瀬戸内海に奇跡的に生物多様性が残された周防灘の心臓部において、キッチンハイターを垂れ流し、海水を温め続けるもので、我が国の自然生態系保全の観点からすれば、狂気の沙汰としか言いようがない。

第4 スナメリに対する影響について
1. スナメリとは

 スナメリは鯨類中の最小種のひとつで、体長約70cmで生まれ、最大個体は150-160cm(インド洋・南シナ海)、あるいは190-200cm(渤海湾-日本)に達する。スナメリはネズミイルカ科の1属1種で、ペルシャ湾から東南アジアをへて中部日本にいたる温暖な沿岸域に生息する。水深50m以浅を好み、季節移動が少なく、帯状分布をするため、遠隔地との交流が制約され、局地的な個体群が形成されやすい。

 日本沿岸には不連続な複数の生息地があり、①有明海・橘湾、②大村湾、③響灘から瀬戸内海を経て紀伊水道、④志摩半島沿岸・伊勢湾・三河湾、⑤東京湾から仙台湾に至る沿岸域の5つに分類されている。

 文部省は瀬戸内海の阿波島の南端から半径1.5kmの海面をスナメリクジラ廻遊海面として1930年11月に天然記念物に指定し保護してきた。水産庁は1993年4月1日から水産資源保護法で保護している。日本哺乳類学会は1997年に大村湾と伊勢湾・三河湾の両個体群を絶滅危惧(CRとVU)、瀬戸内海と有明海・橘湾の両個体群を準絶滅危惧(LRnt)に分類した。

2. 瀬戸内海における個体数の減少

 瀬戸内海の個体数がこの20年ほどの間に著しく減少したとされているがその正確な傾向は必ずしも明らかではない。粕屋教授の研究によれば、概括的な判断ではあるが、情島(広島県)以東では現在のスナメリ個体数は20年間に10-20%に、西海域では50-60%のレベルにあり、瀬戸内海全体では、1/3程度に減少したと計算されている。20余年間のこの変化は、スナメリ全体年率約5%の減少に相当する。

3. 本件埋立とスナメリの危機について

1) 中国電力が実施した環境影響評価書では「調査の結果、スナメリは埋立予定地内の海域では確認されていないこと、埋立護岸等に潮間帯生物や海藻類の新たな生息基盤が形成されること、埋立は140千㎡程度と少なく流況変化は埋立護岸近傍に限られることから、埋立がスナメリ及び餌料生物の生息状況に及ぼす影響は少ないものと考えられ、影響の低減が図られているものと判断する。」とした。

2) しかしながら、上記のように瀬戸内海のスナメリは過去20年間で3分の1に減少したとされ、それは沿岸部の埋立が原因の一つとなっている。瀬戸内海に残る自然海岸は38% であるといわれ,全国平均の57% よりも少なく、埋立は瀬戸内法においても厳しく規制されている。本件埋立はそれを加速させるものであり、スナメリへの影響は軽くない。

3) そもそも、中国電力による調査では予定地内の海域には確認されていないとするが、本件海域には多数のスナメリが確認されている上、幼獣も確認されていることから繁殖の可能性も指摘されている。本件海域のスナメリの分布からすれば、スナメリが確認されていないという意味は調査がずさんであるということ以外の何ものでもない。

 また、「新たな生息基盤の形成」は何を意味するか不明である。田ノ浦の生態系は下内の田ノ浦の複雑な地形、海岸部の湧水などの環境下に成り立っているもので、埋立後に新たな生息基盤ができるという科学的な裏付けはない。

4) 加えて、原子力発電所による温排水の排出は周辺海域の温度を上げる上に、あわせて投与される次亜塩素酸ナトリウムによる海域一帯の生物相に与える影響を考慮すれば、本件埋立、その目的である原子力発電所建設、稼働の影響はスナメリにとって、決して「少ないもの」とは言えない。



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これらの内容は,繰り返し生態学者たちが指摘してきた内容です.最近出版された『奇跡の海:瀬戸内海・上関の生物多様性』(日本生態学会上関要望書アフターケア委員会編,2010,南方新社)に詳述されていますので,ご関心のある方は本書をご覧ください.

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