2010年3月4日木曜日

高島美登里さんの意見陳述書(第1回公判)

陳述書


                         2009年8月19日
                         山口県防府市下右田287-14
                             長島の 自然を守る会 
代表   高島美登里

 私は原告団体である長島の自然を守る会代表の高島美登里です。長島の自然を守る会は1999年9月に発足しました。発足のきっかけは中国電力が行った環境影響評価準備書の不備に端を発します。公告縦覧で眼にした準備書は、地元の人が日常的に目撃していたスナメリについての記載が一切ないなど、素人眼にも大変お粗末な内容でした。私たちは生態系全体の把握や保全対策など、より高い精度が要求される新アセス法に基付いて環境アセスメントをやり直すよう、中国電力に求めました。一方で事業者に任せてはおけないので、専門家の指導を仰ぎながら独自調査を行ってきました。10年間の調査回数はのべ189回、参加人数はのべ1,611人、指導を仰いだ研究者は67人にのぼります。その結果、スナメリやナメクジウオが健全に生息しており、高度経済成長期の埋立てや海砂採取によって失われた、瀬戸内海の生物多様性を残す唯一の場所であることがわかってきました。また、世界的に珍しいヤシマイシン近似種やナガシマツボの生息確認に加え、IUCN(国際自然保護連合)指定の絶滅危惧種であるカンムリウミスズメの繁殖可能性も指摘されるなど、専門家からも「世界遺産に匹敵するホットスポット」と絶賛される地域であることが明らかになっています。このことは既に日本生態学会中国四国地区会の論文集や日本生態学会・日本ベントス学会・日本鳥学会の保全要望決議などでも述べられています。

 さらに最近の調査研究で、里山から海岸まで人工物がないという自然のつながりが、1日最大700mm.もの湧き水のあふれる入り江を形成していることも解明されました。このような入り江は、現在では瀬戸内海に数箇所しか残っておらず、魚たちの産卵や稚魚を育てる場所として利用され、豊かな漁業資源を支えています。

 では、誰がこの豊かな自然を守ってきたのでしょうか。その答えは祝島の人たちの暮らしぶりに象徴されると言っても過言ではないでしょう。「採りすぎず、作りすぎず」という自然と共に生きる生活の知恵です。埋め立て予定地からは祝島に沈む夕陽を見ることが出来ます。逆に祝島から見ると埋め立て予定地に朝日が昇ります。島の人たちは毎朝、1日の無事を祈って朝陽に向かって手を合わせるそうです。つまり長島と祝島は自然環境においても暮らしにおいても一体なのです。ですから、祝島の人たちは、中国電力が環境アセスメントで祝島を調査対象からはずしたことに、強く抗議してきました。

 ところが、中国電力は、公有水面埋立免許願書提出にあたり、欠陥だらけの環境影響評価書を丸ごと引き写したのです。そして山口県知事は免許を交付してしまいました。工事目的である原子炉設置許可申請も出されていない段階で、どうしてそんなことができるのでしょうか。山口県知事自ら上関原発計画を国の電源開発基本計画に組み入れる際、「予定地は自然の宝庫との評価も得ている」ので環境保全に十分留意するよう、付帯意見を述べています。もし、このまま埋め立てが強行されれば、長島の素晴らしい自然環境と生態系はすべて失われてしまいます。トキや日本オオカミの例でも明らかなように一度失った自然は二度と戻ってきません。田ノ浦を埋め立てれば、瀬戸内海の生物群集を再生させる原資(ストック)となるべき個体群のセットは、すべて地球上から抹殺されてしまいます。対岸の祝島の人たちのくらしはどうなるのでしょう?漁場を奪われ、1日のうちでもっとも敬虔な祈りの瞬間(とき)も奪われ、くらしも心の支えも奪われてしまいます。

 21世紀は環境の世紀と言われます。時おりしも来年は生物多様性条約締約国会議が名古屋で開催されます。そんな時にこんな暴挙を許せば、日本は世界中に恥辱を晒すことになります。有明海の環境保護に一生をささげられた山下弘文さんが長島を訪れ、「この自然は過去からの預かり物だ。我々は未来の子供たちにそっくり引き渡す義務がある。」と言い遺されました。私たち人間は自然の一部であること、自然によって生かされていることを思い出すべきなのではないでしょうか。そして、生きものたちの声なき声に耳を傾けるべきではないでしょうか。

 1週間前に田ノ浦の海底調査で3年ぶりにナメクジウオを採取しました。また3日前にはカンムリウミスズメにも出会いました。通常だと一番会える確率の少ない時期なのです。私には、彼らが「どうか、長島の自然を守ってください。それがあなたたちのためでもあるのですよ!」と言っているように思われて仕方ありません。今回は長島を象徴する6種類の生き物たちに原告として登場して貰いましたが、彼らはすべての生き物の声を代弁しているのです。

 昨日、1通のお便りを頂きました。「原告になりたかったけれど、原告費用が払えず残念です。でも、裁判がいい方向に進むように傍聴席で見守っています。」というものでした。私たちも長島の自然を守り、共に生きたいと願うすべての人たちの声を代弁していることを申し添えます。

 山口県知事が公有水面埋め立て免許を取り下げるよう、法の判断が下されることを願ってやみません。

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